大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)1972号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕土地の相当賃料額の算定方式としては、一般に、土地の底地価格に適正利潤率を乗じこれに税金その他の経費を加えた額をもつて相当賃料額とみるいわゆる利回り算定方式と従前の賃料額に土地の価格の上昇率を乗じた額をもつて相当賃料額とみるいわゆるスライド方式とが行なわれている。利回り算定方式は、賃料を賃貸人の投下資本の利息相当額に経費を加えたものとみる点で賃料の本質にかなつた算定方式といえるが、問題は底地価格の算出にあり、もしこの底地価格として市場価格としてのそれ(更地価格に一定地域一定種類の土地については一定したものとして存在するといわれる底地割合を乗じて得られる価格)を採るならば、当該賃貸借だけに存する特殊事情(例えば、賃借人が草分けであるとか、賃貸借締結にあたり特に多額の出損をしたとか、賃貸人との間に特別の友好恩義の関係があるとか、その他これほど明白ではないが従前の賃料を比隣賃料より低廉に協定せしめている一切の事情)が顧慮されないことになるので、その算定結果を右の特殊事情を斟酌して修正しなければならないが、その修正には客観的基準となるべきものがなくまた証拠上右の特殊事情のすべて(なかには賃貸人の従前の賃料協定時における譲歩の理由といつた立証の極めて困難なものもあるが、それらも当事者双方が容認し従前の賃料決定の基礎とした事情であるから、これを無視することは許されない)が常に必ずしももれなく斟酌されることを保し難いし、さればといつて底地価格として更地価格に右の特殊事情を斟酌した当該賃貸借だけの底地割合を乗じて得られる価格を採るのも、かかる価格が前記市場価格としての底地価格のように客観的に実在するものではないだけにとかく主観的なものになり易いか、さもなければ結局従前の賃料をもととして算出せぜるを得ないことになる(このような底地価格は、理論的には、更地価格から従前の賃料とそれが決定された当時に当該土地を新規に賃貸しようとする場合に得べき賃料との差額を資本還元した――価格これが当該土地の借地権価格である――を控除した価格として算出されるからである。)これに対して、スライド方式は、土地の賃料の増減がその土地の価格の増減にほぼ比例することに着目したもので、賃料の算定方式としては基礎的な算定方式ではなく既定賃料の修正のための算定方式であるにすぎないが、もともと借地法第一二条第一項はその文言からも明らかなように従前の賃料決定以後における経済事情の変動により招来された賃料の不相当性の是正をめざすものであつて従前の賃料のそれが決定された当時におけるあるべき賃料(市場価格としての底地価格に適正利潤率を乗じこれに経費を加えて算出した客観的適正賃料)に比しての不相当性まで是正しようとするものではなく、また前記特殊事情は一応ことごとく従前の賃料に反映しているとみられるので、スライド方式の方が借地法第一二条第一項の法意にはより適合した算定方式であるといえるばかりでなく、実際上も簡便な算定方式であるといえる。ただ、スライド方式を採る場合、従前の賃料とそれが決定された当時におけるあるべき賃料との間に存する格差は、土地の価格の上昇につれて次第に拡大することになる。この格差は、当事者双方の容認した前記特殊事情に基因するものであるから、その特殊事情に変化がない限り、原則としてこれを維持すべきものと考えられるが、時にはその特殊事情の内容からみて当事者双方がその特殊事情を容認したとの一事をもつて維持をはかるのが不合理と考えられるほど格差が著しく拡大することがある(例えば賃借人が草分けであるため従前の賃料とそれが決定された当時におけるあるべき賃料との間に格差が存するような場合はその格差はどこまでも維持さるべきであろうが、従前の賃料決定の際に賃貸人が遠慮し譲歩したために右のような格差が生じたがそれが土地の価格の急騰により著しく拡大したような場合は賃貸人はそうしたことまで予想して譲歩しているわけではないからこれに右格差の維持を強いることはできない)。それ故当裁判所は、土地の相当賃料額の算定方式としては、スライド方式を本則とすべきであり、ただ右に述べた例外的な場合のみ利回り算定方式によつてあらためて客観的適正賃料額を算定しそれをもとにして算定すべきものと考える。(露木靖郎)